読書感想『山怪』|絶滅危惧種の「山での不思議体験」を存分に【ネタバレ無し書評】

山では不思議なことが起こるのです

マタギや山で暮らす人々への取材を長年行ってきた著者。取材をしていると、「山での不思議な体験談」も自然と集まってくる。そんな体験談をまとめたのが本書です。

山怪 山人が語る不思議な話

狐火、巨大な蛇、ぬりかべ、正体不明の声や足音。あるはずのない池や道、小人・・・・。

とくに狐火の目撃や、狐や狸に化かされた話は多く、そしてだいたい持っていた食べ物を取られるというオチ。狐も狸も、狩りの手段として人をだましていると思うとなんだか感心しますし、面白いですね。

そんな日本昔ばなしのような、ファンタジーの世界でほっこりして油断していたら、神隠しや死者の話、謎の僧侶や謎の女の話に背筋が凍る。怖がらせようと作られた怪談ではなく、あくまで山で暮らすの人々の暮らしの一部として、語られたものを淡々とまとめてあるんですよ。それが逆にリアルで怖さが倍増するんですよね・・・。 

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 以前感想を書いた「恐い間取り」とはまた違った、得体の知れない世界への恐怖感。

 

減ってゆく山での怪談

勘違いや思い込み、で済まされてしまうような話も沢山あります。

山には恐怖の対象となるいろんなものがある。草木は常にわさわさ動いていて、動物の姿や鳴き声が響き、そしてなにより暗い場所がある。そこに人の恐怖心、想像力が掛け合わされて数々の不思議な出来事が生まれるんでしょうね。(それで証明できない話もあって超怖いけどね!)

明かりを手に入れ、機械を手に入れ、そもそも山に入ることも少ない現代人は、暗い場所、恐れる場所が少なくなった。 さらに「最近の子供はゲームや勉強に忙しいし、じじばばと話をしない、山の話には興味がない」といったお話も。山での怪奇現象は語り手、継ぎ手のいない絶滅危惧種なんだと気付かされました。

こういう不思議な話はただ怖いだけでなく、教訓を含んだ言い伝えの要素も多いですよね。ことわざや昔話と同じく・・・。子供が危ない場所に行かないようとか。

昔の家では暗くて怖い場所であり、恐怖の対象だったこともありますが、綺麗に使おうという意図もあってトイレやお風呂にまつわる妖怪や怪談は多いんでしょう。

たかだか勘違いや妄想かもしれませんが、のんのんばあから妖怪や神様の話を聞き、本気で妖怪がいると信じ込んだ水木しげる先生は日本中に妖怪の文化を広めました。鬼太郎はいつの時代の子供にも大人気。想像力は凄いものだ。

水木しげる鬼太郎大百科

伝統、文化、民族性、残していきたい大切なものがたっぷり詰まった山での不思議な話。このまま絶滅してしまうのはなんとも悲しい。こうやって書籍にまとめ、形として残してくれたことで、私達が読むことができるのがありがたいですね。

事実とても人気があるそうで、現在3巻まで刊行されています。私はまだ1巻を読了したばかりなので、これからもまだまだ沢山の「山の怪談」知り合えることが出来そうで楽しみです。

ヤマケイ文庫 山怪 山人が語る不思議な話

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